より豊かな毎日を過ごすための睡眠のお話
横浜市立みなと赤十字病院
健診センター長 伊藤美奈子
睡眠はあらゆる恒温・脊椎動物に見られる休息活動で、きわめて重要な生理現象です。成人の適切な睡眠時間は1日6~8時間と考えられており、人生の3分の1を占めます。睡眠不足は日中の眠気や疲労だけでなく、頭痛や情緒不安定、注意力や判断力を要する作業の効率低下、学業成績の低下など影響は多岐にわたります。さらに、事故などの重大な結果を招く場合もあります。また、いろいろな疾患例えば、肥満症や高血圧、糖尿病、心血管疾患、免疫・アレルギー疾患、うつ病の発症リスクの上昇や症状の悪化を招き、死亡率を上昇させます。十分な睡眠は記憶の定着、創造性の発揮に関係します。
日本人の睡眠時間は世界的に見ても短く、経済協力開発機構(OECD)の2021年の調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、加盟国33ヶ国中最下位でした。OECD加盟国の中で一番睡眠時間の長い米国と比べると、約1時間半も短くなっています。
睡眠の量は時間で把握するのに対し、睡眠の質はその人の「睡眠休養感(睡眠で休養がとれている感覚)」で評価します。グラフのように、睡眠時間が短いことに加えて、睡眠休養感が低い人の方が死亡率が高かったという研究報告があります。また、質の良い睡眠をとることで認知症予防につながると考えられています。
私たちの体には時間を刻むシステム、「体内時計」があります。体内時計に指示を出す遺伝子を発見した3人の米国人科学者が2017年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。体内時計は脳だけでなく、末梢組織でも機能しています。この時計の針が狂うと、睡眠障害だけでなく、前述の疾患、さらにがんの発症にもつながることが分かってきました。私たちの体内時計は1日25時間の周期で動いています。これを1日24時間の周期に合わせるために、朝起きて太陽の光を浴びて、朝食を摂ることで体内時計が日々リセットできます。
ある曲のメロディやフレーズが脳内で延々と繰り返される現象を「イヤーワーム」といいます。音楽を聴きながら寝ると、睡眠中にイヤーワームが起きやすくなります。入眠までの時間は、イヤーワームが起きなかった人が10分、起きた人が18分だったという報告があり、イヤーワームは睡眠を妨げると推測されています。
最後に、睡眠の質を上げるためには生活習慣改善が重要ですが、閉塞性睡眠時無呼吸や精神疾患などの病気が潜んでいる可能性があるので、症状が強い場合は医療機関への受診をおすすめします。
【睡眠の質を上げるポイント】
- 朝起きて太陽の光を浴び、朝食を摂る
- 日中は適度な運動をする
- 昼寝は20~30分にする
- 夕食後寝るまで3時間は空ける
- 寝る1~1時間半前にお風呂に入る
- 眠くなってから布団に入る
- 部屋の温度と湿度を調整する
- 寝床でスマートフォンを見たり音楽を聴いたりしない
- 休日も平日の起床時間と2時間以上ずれないようにする